Vol.9 // フィンランドの自然をモチーフに生まれたフラワーベース -イッタラ

ヘルシンキの中心部、エスプラナーディ公園のそばにあるレストラン「サヴォイ」。こちらで使われていることから、「サヴォイベース」とも呼ばれる。

ヘルシンキの中心部、エスプラナーディ公園のそばにあるレストラン「サヴォイ」。こちらで使われていることから、「サヴォイベース」とも呼ばれる。

フィンランドの首都、ヘルシンキの中心部にある高級レストラン「サヴォイ」。建築家、デザイナーであるアルヴァ・アアルトが内装から家具、ランプなどのデザインを手がけている。そして、テーブルにセッティングされた花がゲストを迎えてくれるのだが、花を引き立てるはずの花瓶のフォルムに目を奪われてしまう。これもまた、アアルトのデザインだ。こちらのレストランの名前を取り、「サヴォイベース」と呼ばれることも。

フラワーベースは、1937年、パリ万博のフィンランド館のために行われたコンペティション、「新しい用途を持った美的なガラスデザイン」に出品するためにデザインされた。そのモチーフは、湖のかたちや白樺の切り株など諸説あるが、いずれにしても、「森と湖の国」と形容されるフィンランドの自然からインスピレーションを得ているようだ。当時のアアルトは、フィンランドの森に自生する白樺(バーチ)を素材に、「スツール60」や「パイミオチェア」を発表するなど、フィンランドのアイデンティティを感じさせるデザインを大切にしていた。1917年にロシアからの独立を果たしたばかりの新しい国家において、デザインを通してアンバサダーとしての役割を果たそうとしていたのだろう。ちなみに、妻のアイノ・アアルトも、湖に広がる波紋をイメージさせるタンブラーをデザインしている。

1937年に発表されて以来、フラワーベースは、サイズやカラーのバリエーションを増やしながら、今もイッタラ社からつくり続けられるロングセラーだ。2016年は、新色に「エメラルド」が加わった。このフラワーベースは、7人の職人の手を経て制作されるというが、そうして生まれた独創的なフォルムは、空間に品を、彩りを添えてくれる。

Aaltovase160mmemerald 「アルヴァ・アアルトコレクション ベース 160mm エメラルド」。2016年の新色。(画像提供:スキャンデックス)

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「アルヴァ・アアルトコレクション ベース 160mm エメラルド」。2016年の新色。(画像提供:スキャンデックス)

Alvar_Aalto_vase_160mm_desert_2 「アルヴァ・アアルトコレクション ベース 160mm デザート」。(画像提供:スキャンデックス)

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「アルヴァ・アアルトコレクション ベース 160mm デザート」。(画像提供:スキャンデックス)

Aaltomaljakko251mmsaderain 「アルヴァ・アアルトコレクション ベース 255mm レイン」。

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「アルヴァ・アアルトコレクション ベース 255mm レイン」。(画像提供:スキャンデックス)
製品の問い合わせ先
株式会社 スキャンデックス
TEL 03-3543-3453
URL http://www.scandex.co.jp/

Vol.8 // 業界の常識にとらわれないイノベーティブアイウェア -モノクール

2009年創業のデンマークのアイウェアブランド、「モノクール」。モデルが掛けるのは、今春より日本で本格的に展開する「IQ」シリーズ。

2009年創業のデンマークのアイウェアブランド、「モノクール」。モデルが掛けるのは、今春より日本で本格的に展開する「IQ」シリーズ。(画像提供:モノクールジャパン)

2009年秋、パリで開催された世界最大のアイウェアの見本市「SILMO」でデビューしたデンマークのブランド、「MONOQOOL(モノクール)」。以来、斬新な発想から生まれたアイウェアは、各国のデザイン賞を受賞するなど、高い評価を得ている。

モノクールのコンセプトは、「イノベーティブであり続けること」。シンプルなデザインの中に、さまざまなギミックが隠されている。

現行の「IQ」シリーズには、通常アイウェアにあるべきものがない。レンズをはめこむパーツ(フロント)と、耳にかけるパーツ(テンプル)は、ネジを使って連結させるのが一般的だが、「IQ」では、テンプルの先をかぎ針のような形状にし、フロントにひっかけて回転させることでネジを不要とした。このスクリューレス構造は、モノクールがデビューモデルからこだわっている、いわばアイデンティティといえる。無論、スクリューレスは、単にギミックのおもしろさだけを狙ったものではない。ネジをなくすことで、掛け心地の調整や修理の際、ネジを外す手間が省け、また紛失の心配もない。さらに、「IQ」で10g、「IQ mini」で6gという、業界でも屈指の軽量化を実現した。

製造方法もユニークだ。ナイロン(ポリアミド)素材のフロントは、3Dプリンターで成形される。航空機のパーツやプロトタイプの製作におもに利用される3Dプリンターを本格的に採用している点も、イノベーティブを貫くモノクールならではといえるだろう。以下のムービーを見れば、よりおわかりいただけるはずだ。
https://www.youtube.com/watch?v=otTSI_qOR3Q

また、カラーリングも特徴的だ。ブラックやグレー、グリーンなどの抑えたカラーから、ブルーやピンクなどの鮮やかなカラーまで幅広く展開している。

北欧のデザインに対して、ナチュラルでハンドクラフトなものをイメージする人も多いかもしれない。しかし、通信機器メーカーの「エリクソン」「ノキア」、コンピュータのオペレーティングシステムの「リナックス」も北欧から生まれている。

つまり、モノクールは、イノベーティブという北欧の伝統をしっかり継承しているのだ。

IQシリーズの「LOVE」。重さは10g。(画像提供:モノクールジャパン)

IQシリーズの「LOVE」。重さは10g。(画像提供:モノクールジャパン)

IQ miniシリーズの「ANTONIO」。重さは6g。テンプルのラインを細くすることでさらなる軽量化に成功した。

IQ miniシリーズの「ANTONIO」。重さは6g。テンプルのラインを細くすることでさらなる軽量化に成功した。(画像提供:モノクールジャパン)
製品の問い合わせ先
スギモトデザインスタジオ(モノクールジャパン)
TEL 0776-60-1660
URL www.monoqool.com

Vol.7 // アルネ・ヤコブセンの知られざる魅力をプロダクトに -デザインレターズ

「AJ ROYAL VINTAGE」コレクションの「Greeting Card」(画像提供:株式会社NOMAD)

「AJ ROYAL VINTAGE」コレクションの「Greeting Card」(画像提供:株式会社NOMAD)

現代のデザイナーは、建築、インテリア、家具、テキスタイル、グラフィックなど、分業制が一般的だ。しかし、20世紀の中頃までは、それらをひとりでこなすマルチなデザイナーが少なくなかった。デンマークのアルネ・ヤコブセンもそのひとりだ。

ヤコブセンの代表的なプロジェクトに、コペンハーゲンの中心部に建つ「SASロイヤルホテル(現ラディソンブルーロイヤルホテル)」(1960年竣工)がある。ここでは、建築の設計はもちろん、家具、照明器具、建具などまで、ありとあらゆるものをデザインしている。映画やCMなどにしばしば登場する「エッグチェア」「スワンチェア」は、もともと当ホテルのためにデザインされたものだ。そんなヤコブセンの遺した才能を再発見し、製品をプロデュースしたのが、2009年に誕生したデンマークのブランド、デザインレターズ。2016年春の新作を紹介しよう。

まずは、「AJ ROYAL VINTAGE」から。こちらの「Greeting Card」は、「SASロイヤルホテル」の2階のフロアカーペットのデザインをステーショナリーに取り入れたもの。モノトーンの幾何学模様からは知性が感じられる。ほかには、旅の日記や写真をスクラップできる「Travel Journal」もある。

次に、「Flowers by Arne Jacobsen」。ヤコブセンは子どもの頃、水彩画の才能に秀でており、画家になりたかったそうだ。また、第二次世界大戦中、スウェーデンに亡命していた際には、自然をモチーフにテキスタイルの制作に没頭していたという。こちらのアネモネのパターンからは、あまり知られていないヤコブセンの絵の魅力を窺い知ることができる。「Notebook」「Flower Greeting Card」「Pencils」を展開する。

最後が、デザインレターズの象徴ともいえる「Arne Jacobsen’s vintage ABC」。細身のタイポグラフィは、ヤコブセンの初期の代表作「オーフス市庁舎」(1942年竣工)の内部のサインとしてデザインされた。これまでのステーショナリーやカップなどに加え、新たに「Baby’s first book」が加わった。

ヤコブセンが上記のオリジナルのデザインを手がけたのは、デンマークデザインの黄金期といわれる1940~60年代のこと。現代においてもまったく色褪せないデザインに、ディテールにいたるまでこだわり抜いた“完璧主義者”ヤコブセンの神髄を見る思いだ。

「Flowers by Arne Jacobsen」コレクションのNotebook(画像提供:株式会社NOMAD)

「Flowers by Arne Jacobsen」コレクションのNotebook(画像提供:株式会社NOMAD)

北欧時計専門店 北欧デザインサロン

「Arne Jacobsen’s vintage ABC」コレクションの「Baby’s first book」

「Arne Jacobsen’s vintage ABC」コレクションの「Baby’s first book」
製品の問い合わせ先
株式会社アクタス
TEL 03-5269-3207
URL http://online.actus-interior.com/

Vol.6 // 祖父の形見から生まれたモダンなレインコート -ストゥッテルハイム

(画像提供:Swedish Lifestyle 株式会社) 時代に左右されないシンプルでスタイリッシュなデザインが、ストゥッテルハイムの魅力。ストックホルムで初めて見たとき、店内に並ぶホワイトのコートが印象的だった。

(画像提供:Swedish Lifestyle 株式会社)
時代に左右されないシンプルでスタイリッシュなデザインが、ストゥッテルハイムの魅力。ストックホルムで初めて見たとき、店内に並ぶホワイトのコートが印象的だった。

14の島から構成されるスウェーデンの首都ストックホルムは、エリアごとにさまざまな表情を見せてくれる。宮崎駿の映画『魔女の宅急便』の舞台にもなった旧市街ガムラ・スタン、「スヴェンスク・テン」や「マルムステン・ブティーク」、「アスプルンド」などのスウェーデンを代表するショップが軒を連ねるエステルマルム、ミュージアムが密集するシェップスホルメンなど、洗練された街並みはどこを切り取っても絵になる。その中でも、個人的にお気に入りなのが、セーデルマルム。路地を歩くと、クリエイターのアトリエやショップ、カフェなどがふいに姿をあらわす。散策するだけで、気分が高揚するのを自覚する。

5年ほど前、セーデルマルムのメインストリートのひとつ、Åsögatanでコートしか置いていない小さなショップの前を通りかかった。綺麗なラインのレインコートに惹かれながらも、そのときはショーウィンドウから覗いただけで立ち去った。しかし、ストックホルムにいる間、ずっと気になっていた。北欧は降水量こそ多くないが、1日の中で頻繁に小雨が降る。その煩わしさのため、傘をさす人は少なく、レインコートが普及している。あのとき、小雨が降っていたなら、僕も購入していたかもしれない。

それが、「STUTTERHEIM(ストゥッテルハイム)」とのはじめての出会いだった。2010年に創業というから、あのとき店の奥にいた青年は、ブランドを立ち上げたアレキサンダー・ストゥッテルハイムだったのだろうか。デザイナーでもある彼は、祖父が生前に愛用していたフィッシャーマンコートを偶然小屋で発見し、それをベースにパターンを起こした。そうして、機能性とスタイリッシュなデザインを踏襲しつつ、モダンにアップデートされたアウターコートを誕生させた。元来、漁師たちの仕事着であったフィッシャーマンコートならではの機能性および耐久性と、現代の感覚にアジャストさせたデザイン性を、職人の手仕事により実現させたコートは、瞬く間に評判となった。

「メランコリー(憂鬱)」がブランドのコンセプトとのことだが、ストゥッテルハイムのコートを身に纏えば、雨の日も、長く暗い冬でも楽しめそうな気がする。

(画像提供:Swedish Lifestyle 株式会社) ストゥッテルハイムの定番「STOCKHOLM」。写真は2016SSの新作、ドッグトゥース(千鳥格子)柄。 製品の問い合わせ先 Swedish Lifestyle 株式会社 TEL 03-6904-9580 URL www.swedishlifestyle.jp/

(画像提供:Swedish Lifestyle 株式会社)
ストゥッテルハイムの定番「STOCKHOLM」。写真は2016SSの新作、ドッグトゥース(千鳥格子)柄。
製品の問い合わせ先
Swedish Lifestyle 株式会社
TEL 03-6904-9580
URL www.swedishlifestyle.jp/

Vol.5 // フィールドは地球。タフで機能的なアウトドアブランド -フェールラーベン

多くのサイズ、カラーバリエーションを誇る「KÅNKEN」。2冊のバインダーが収納できるスペース、適材適所に備わったポケット、リフレクターにもなるロゴなど、デザイン性はもちろん、多機能性も人気の理由だ。(画像提供:ワイエスインターナショナル株式会社)

多くのサイズ、カラーバリエーションを誇る「KÅNKEN」。2冊のバインダーが収納できるスペース、適材適所に備わったポケット、リフレクターにもなるロゴなど、デザイン性はもちろん、多機能性も人気の理由だ。(画像提供:ワイエスインターナショナル株式会社)

最近、街中で「北極キツネ」のロゴが入ったカラフルなバックパックを見かける。そのファッション性が、若い世代を中心に人気の理由かもしれないが、単なる一過性の流行としてのみ捉えられるのでは、その魅力の半分も伝わっていない。

このバックパックはスウェーデンのブランド、「フェールラーベン」の「KÅNKEN」。誕生のストーリーはこうだ。

1970年代後半、スウェーデンでは、通学用のバッグが原因で、背中の痛みを訴える子どもたちが続出していた。そこで、フェールラーベンの創業者、オッケ・ノルディンは子どもたちを救おうと考え、スウェーデンの電話帳をモチーフに、学校の持ちものがすべて入り、軽くて、丈夫なバックパックを生み出した。スウェーデンの“ランドセル”は子どもたちを背中の痛みから開放し、さらに、そのシンプルなデザインにより大人になってからも愛用され続けた。

機能性や耐久性に優れ、環境にも配慮して……などは、現代のものづくりにおける常套句だが、フェールラーベンの本気度は、さらにもう一段、いや二、三段、ギヤを上げる。それを端的に物語るのが、「G-1000」という素材だ。

テント用の生地をベースに、着心地を考慮して開発されたG-1000は、1966年に探検隊のアウターウェアの生地に採用され、極寒のグリーンランドで1000kmを走破したことから名付けられた。タフな環境にも耐えられる軽量性と耐久性、さらに、蜜蝋とパラフィンの化合物である「グリーンランドワックス」を生地に含浸することによって向上する撥水性や防風性が特徴だ。真夏や熱帯であれば生地に備わる透湿性や速乾性が威力を発揮し、真冬や寒帯であれば生地にワックスを塗布して撥水性や防風性を高められる。このG-1000は「KEB JACKET」をはじめ、同社の多くの製品に採用されている。

1960年、24歳の青年がアパートの地下室からスタートしたブランドは、今や地球上のあらゆるフィールドにおいて頼られる存在となった。

極寒のグリーンランド遠征から誕生した世界最強の素材「G-1000」を採用した「KEB JACKET」。優れた透湿性、速乾性は真夏、熱帯の地で、グリーンランドワックスを生地に含浸させることでより向上する防風性、撥水性は真冬、極寒の地で威力を発揮するなど、使用されるフィールドを選ばない。  製品の問い合わせ先 ワイエスインターナショナル株式会社 TEL 03-6418-9339 URL www.fjallraven.jp

極寒のグリーンランド遠征から誕生した世界最強の素材「G-1000」を採用した「KEB JACKET」。優れた透湿性、速乾性は真夏、熱帯の地で、グリーンランドワックスを生地に含浸させることでより向上する防風性、撥水性は真冬、極寒の地で威力を発揮するなど、使用されるフィールドを選ばない。
製品の問い合わせ先
ワイエスインターナショナル株式会社
TEL 03-6418-9339
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Vol.4 // 北欧デザインが愛される理由(4) 北欧各国のデザイン-スカンジナビア編

デンマークにある「ルイジアナ現代美術館」のカフェ。カラフルな椅子は、デンマークの巨匠、アルネ・ヤコブセンがデザインした「セブンチェア」。

デンマークにある「ルイジアナ現代美術館」のカフェ。カラフルな椅子は、デンマークの巨匠、アルネ・ヤコブセンがデザインした「セブンチェア」。

前回はフィンランドのデザインについて紹介したが、今回はスカンジナビアの国々(ノルウェー・スウェーデン・デンマーク)について解説したい。

北欧は、4か国を合わせても人口が約2500万人と少なく、スウェーデンは鉄鉱石が産出されるものの、資源にも恵まれていない。しかし、ノルウェーは事情が異なる。それは、1960年代に発見された北海油田の存在だ。巨額のオイルマネーを手に入れたノルウェーは、他の北欧諸国が優れたデザインのプロダクトを海外へ輸出することで外貨を得ようとしたのに対し、国の政策としてデザインに力を注いでこなかった。それゆえ、北欧の中ではデザイン後進国と呼ばれる。ただ、70年代には、座板と足のせ板の位置を成長に合わせて変えることで、赤ちゃんから大人までが使える画期的な椅子「トリップ トラップ」が生まれた。世界中で愛用されるベストセラーだ。

スウェーデンには、ノーベル賞の晩餐会で使用されるテーブルウェアを提供しているロールストランドに代表される、王室御用達のブランドがある。ただ、北欧デザインの黄金期と呼ばれる1950〜60年代は、デンマークやフィンランドほど、世界的に知られるデザイナーを輩出していない。だからこそ、90年代以降、伝統に縛られることなく、いい意味で北欧らしくないユニークな発想を持った建築家、デザイナーたちが登場した。また、彼らは国内、北欧だけでなく、世界にも目を向けた。自動車の「ボルボ」や、インテリアの「イケア」、アパレルの「H&M」などの世界的企業が多いのも特徴だ。

ミッドセンチュリーの北欧デザインをリードしたのが、デンマークだった。「アントチェア」「エッグチェア」などで知られるアルネ・ヤコブセンや、「Yチェア」のハンス・J・ウェグナーをはじめ、フィン・ユール、ポール・ケアホルムら、次々と名前が挙がる。北米における評価も高く、「デザイン・イン・スカンジナビア展」が巡回され、世界的に知られるきっかけとなった。デザイナーのアイデアを実現するために、試行錯誤を繰り返した職人のレベルも高い。デンマークのプロダクトからは、最もクラフトマンシップが感じられる。

ハンス・J・ウェグナーの名作「ザ・チェア」などを製造するデンマークの工房、PPモブラー。機械でできることは機械にゆだねる合理性と、熟練の職人による手仕事とのバランスがいい。ちなみに、「ザ・チェア」はジョン・F・ケネディがテレビの討論会で腰かけたことで、一躍人気となった。

ハンス・J・ウェグナーの名作「ザ・チェア」などを製造するデンマークの工房、PPモブラー。機械でできることは機械にゆだねる合理性と、熟練の職人による手仕事とのバランスがいい。ちなみに、「ザ・チェア」はジョン・F・ケネディがテレビの討論会で腰かけたことで、一躍人気となった。

Vol.3 // 北欧デザインが愛される理由(3) 北欧各国のデザインーフィンランド編

アルヴァ・アアルトが設計したアカデミア書店の2階にある「カフェ・アアルト」。映画『かもめ食堂』のロケ地としても知られる。「ゴールデンベル」という名のペンダントランプもアアルトのデザインだ。場所はヘルシンキ中央駅の近く。

アルヴァ・アアルトが設計したアカデミア書店の2階にある「カフェ・アアルト」。映画『かもめ食堂』のロケ地としても知られる。「ゴールデンベル」という名のペンダントランプもアアルトのデザインだ。場所はヘルシンキ中央駅の近く。

「北欧デザイン」として、しばしば北欧諸国はひとまとめにされがちだ。地域性や民族性などを考えると、それはある意味では正しいが、もし日本、韓国、中国をひとくくりにされたなら、どうだろうか。

一般的に、「スカンジナビア」とはデンマーク、ノルウェー、スウェーデンを指す。また、フィンランドは共和国だが、デンマーク、ノルウェー、スウェーデンは王国である。言語においても、フィンランドがウラル語系の言語なのに対し、デンマーク、ノルウェー、スウェーデンはゲルマン語系の言語を用い、ある程度は相互の言葉を理解できるという。日本語の「ありがとう」を例に挙げると、フィンランドは「kiitos」だが、デンマークは「tak」、ノルウェーは「takk」、スウェーデンは「tack」といったように似ている。以上のことから、後者はひとつの文化圏ととらえることもできるだろう。しかし、それぞれに歴史や文化があるように、デザインも微妙に異なる。

まずは、フィンランドから見ていきたい。20世紀のフィンランドデザインの礎を築いたのが、アルヴァ・アアルトだ。ユーロが導入される以前のマルカの紙幣に登場するなど、建築家やデザイナーといったカテゴリーを超えた存在感を誇る。代表作に、1933年に発表された「スツール60」がある。今では、類似品も見られるシンプルな形状のスツールだが、フィンランドの森に自生する白樺を材料に、試行錯誤を重ね、「Lレッグ」と呼ばれる当時としては画期的な技法を開発したことは、椅子の歴史においてエポックメイキングな出来事であった。しかし、脚の開発に時間を費やしたにもかかわらず、座面と脚の組み立ての工程では、あっさりとビスで留めている。デンマークなら、いかにビスを使わずに、工芸的に美しく仕上げることにこだわるだろう。彼は、ビスを用いることで量産化を可能とし、安価で提供することを目指したのだ。フィンランドの家庭には、このスツールをはじめ、アアルトのプロダクトがひとつはあるといわれるが、華美ではない庶民のためのデザインが、フィンランドの魅力なのである。

次回は、スカンジナビア諸国のデザインを解説する。

アルヴァ・アアルトが1933年に発表した「スツール60」。リーズナブルな価格、シンプルなデザイン、積み重ねが可能などの機能性により、発売から80年が経過した今もなお、住宅から公共の場所などまで愛用され続けている。

アルヴァ・アアルトが1933年に発表した「スツール60」。リーズナブルな価格、シンプルなデザイン、積み重ねが可能などの機能性により、発売から80年が経過した今もなお、住宅から公共の場所などまで愛用され続けている。

Vol.2 // 北欧デザインが愛される理由(2) “国民幸福度”の高いライフスタイル

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フィンランドのイラストレーターの自宅のブランチ。食卓には、フィンランドの名窯、アラビアの食器が並ぶ。

暗く、長い冬。北欧の人たちは必然的に自宅で過ごす時間が長くなる。そのため、彼らは家で快適に過ごすための工夫を重ねてきた。

早い夕暮れとともに、窓辺や食卓のキャンドルに火が灯され始める。ちなみに、フィンランドは一人当たりのキャンドルの消費量が世界一だそうだ。そして夕食時には、家族全員が集い、あたたかな灯りの中、1日の出来事を語らいながら、時間を掛けて食事する。食後はリビングに移動し、座り心地のよいソファに腰掛け、映画を見たり、読書をしたり…。そこには、慎ましくも、幸せな日常がある。世界的に知られる、機能的で美しく、タイムレスな価値を持つ家具や照明器具、陶磁器などをデザインしたアルネ・ヤコブセンやアルヴァ・アアルト、ポール・ヘニングセン、カイ・フランクらは、こうした環境から生まれた。

冬がようやく終わりを告げると、彼らはこぞって戸外へ飛び出して行く。夏至祭では、いつまでも沈まない陽光の下、輪になって歌い踊る。夏休みには、森や湖のほとりのサマーハウスへ。それは日本人がイメージする別荘とは違い、質素な小屋であることが多い。ボートに揺られたり、魚を釣ったり、森でベリーを摘んだりしながら、夏は足早に駆けていく…。

北欧の人々が置かれた環境は、決して恵まれたものではないかもしれない。しかし、彼らは生活を楽しむ術を知っている。国民幸福度調査において、1位の常連のデンマークをはじめ、北欧諸国が上位に入るのも納得だ。

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スウェーデン・ストックホルムにあるカフェ「Valand」。あたたかな照明が、居心地のよさを生んでいる。余談だが、2014年に公開された映画『ストックホルムでワルツを』のロケ地にもなった。

Vol.1 // 北欧デザインが世界で愛される理由(1) 逆境の中から生まれた北欧デザイン

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北欧の北極圏に位置する場所ではオーロラが見られる。光に恵まれない北欧の人たちにとって、ギフトのようなものなのかもしれない。

この10年余りで、日本でも「北欧デザイン」という言葉が市民権を得たように思える。世界最大のデザインイベント「ミラノサローネ」が開催されるイタリアも、20世紀のデザイン史において重要な役割を果たした総合的造形学校「バウハウス」を生んだドイツも、チャールズ&レイ・イームズを筆頭にミッドセンチュリーデザインをリードしたアメリカも、それぞれデザイン先進国として知られるが、固有名詞のように扱われるのは「北欧デザイン」だけではないだろうか。ちなみに、北欧デザインが最初に注目されたのは1950年代のこと。アルネ・ヤコブセン、ハンス・J・ウェグナーら、多くの巨匠たちが登場し、北米では、「デザイン・イン・スカンジナビア展」が開催された。

そのような特別な存在感を放つデザインを創造する北欧とは、どのような場所なのだろうか。属する国としては、ヨーロッパ大陸の北に位置するデンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドが一般的だ(アイスランドが含まれることもある)。人口は4か国を合わせても、2500万人程度しかいない。ノルウェーでは北海油田が発見されたが、北方の辺境の貧困な大地ゆえに資源も少ない。そして、高緯度のために、真夜中近くまで日が沈まないわずかな夏と、昼の前後の一時しか太陽が姿を見せない、暗く、長い冬を繰り返す。1年の大半をグレーの世界で過ごさねばならない北欧の人々にとって光は愛おしい存在であり、そうした背景から「ブルーモーメント」のような美しい言葉が生まれたのだと思う。

一見すると、恵まれない条件ばかりが並ぶが、こうした逆境が北欧デザインを生んだのだ。資源がない分、グッドデザインを海外へ輸出することで国を潤わせることを考え、そうして生まれた数々のデザインプロダクトが、彼らの暮らしを美しく彩ったのである。

次回は、北欧の人々のライフスタイルについて話をしたいと思う。お楽しみに。

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ノルウェーの首都、オスロの9月下旬の夕暮れ時の空。日が沈んだ後、空が深い青に包まれる時間を「ブルーモーメント」と呼ぶ。日本では数十分だが、北欧では数時間続くことも。ちなみに、ブルーモーメントは北欧で生まれた言葉だ。

北欧デザインサロンについて

ここは、北欧時計専門店の片隅、デザインを愛する者たちが集う場所。デザインジャーナリストの萩原健太郎が、北欧の“衣食住遊”にまつわるストーリーや、それらを彩るプロダクトの魅力を毎月紹介していきます。訪れるたびに知識が深まり、北欧デザインがもっと好きになる。知的で楽しいひと時をお過ごしください。

Writer 萩原健太郎 http://www.flighttodenmark.com

Editor 島尻明典

Produce 株式会社浪漫堂 http://www.romando.co.jp

萩原健太郎 Profile
ライター、フォトグラファー、京都造形芸術大学非常勤講師。
1972 年生まれ。大阪府出身。関西学院大学卒業。株式会社アクタス勤務、デンマーク留学などを経て 2007 年独立。デザイン、インテリア、北欧、 建築、手仕事などのジャンルの執筆を中心に活動中。著書に「北欧とコーヒー」(青幻舎)、「北欧の日用品」(エクスナレッジ)、「写真で旅する 北欧の事典」(誠文堂新光社)、「北欧デザインの巨人たち あしあとをたどって。」(ビー・エヌ・エヌ新社)などがある。