
北欧の北極圏に位置する場所ではオーロラが見られる。光に恵まれない北欧の人たちにとって、ギフトのようなものなのかもしれない。
この10年余りで、日本でも「北欧デザイン」という言葉が市民権を得たように思える。世界最大のデザインイベント「ミラノサローネ」が開催されるイタリアも、20世紀のデザイン史において重要な役割を果たした総合的造形学校「バウハウス」を生んだドイツも、チャールズ&レイ・イームズを筆頭にミッドセンチュリーデザインをリードしたアメリカも、それぞれデザイン先進国として知られるが、固有名詞のように扱われるのは「北欧デザイン」だけではないだろうか。ちなみに、北欧デザインが最初に注目されたのは1950年代のこと。アルネ・ヤコブセン、ハンス・J・ウェグナーら、多くの巨匠たちが登場し、北米では、「デザイン・イン・スカンジナビア展」が開催された。
そのような特別な存在感を放つデザインを創造する北欧とは、どのような場所なのだろうか。属する国としては、ヨーロッパ大陸の北に位置するデンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドが一般的だ(アイスランドが含まれることもある)。人口は4か国を合わせても、2500万人程度しかいない。ノルウェーでは北海油田が発見されたが、北方の辺境の貧困な大地ゆえに資源も少ない。そして、高緯度のために、真夜中近くまで日が沈まないわずかな夏と、昼の前後の一時しか太陽が姿を見せない、暗く、長い冬を繰り返す。1年の大半をグレーの世界で過ごさねばならない北欧の人々にとって光は愛おしい存在であり、そうした背景から「ブルーモーメント」のような美しい言葉が生まれたのだと思う。
一見すると、恵まれない条件ばかりが並ぶが、こうした逆境が北欧デザインを生んだのだ。資源がない分、グッドデザインを海外へ輸出することで国を潤わせることを考え、そうして生まれた数々のデザインプロダクトが、彼らの暮らしを美しく彩ったのである。
次回は、北欧の人々のライフスタイルについて話をしたいと思う。お楽しみに。

ノルウェーの首都、オスロの9月下旬の夕暮れ時の空。日が沈んだ後、空が深い青に包まれる時間を「ブルーモーメント」と呼ぶ。日本では数十分だが、北欧では数時間続くことも。ちなみに、ブルーモーメントは北欧で生まれた言葉だ。